60年近く続く結婚生活は、時代を超えて語り継がれるもの。特に「クイーン・シャーロット」のように現実に根ざしたものであればなおさらだ。
英国王ジョージ3世と王妃シャーロットの57年にわたるロマンスの起源を題材に、『ブリジャートン家』を手掛けたションダ・ライムズが 同作初のスピンオフ作品として前日譚を描く。
シリーズの冒頭で『これは歴史の授業ではなく、事実に構想を得たフィクションです』と説明しているように、イギリスの国王と女王は実在する人物だが、彼らのロマンスをドラマとして解釈するのはフィクションである。
そして「クイーン・シャーロット」の世界を構築するために史書から引用したのは、王室のカップルだけではない。実在する人物からインスピレーションを得たのは誰なのか─?その裏側を見てみましょう。
Source: Tudum/ ‘Queen Charlotte’: Inside the History of a Fictional World より
■シャーロット王妃は実在する?
シャーロット王妃(別名 [旧] : ソフィア・シャーロット・オブ・メクレンバーグ=ストレリッツ)は確かに実在したが、若き頃を演じたインディア・リア・アマルテイフィオと、中年時代を演じたゴルダ・ローシュヴェルの “シャーロット”というキャラクターは、ションダ・ライムズの創造物である。
前途のとおり、これは歴史の授業ではないのだ。
『イングランドのシャーロット王妃ではなく、ブリジャートンのシャーロット王妃の物語。視聴者がそれを理解することは私にとってとても重要なのです』ライムズはTudumへ強調している。
もちろん、実際のシャーロット王妃も1744年にドイツ領のメクレンブルク=シュトレーリッツで生まれ、1761年に英国王ジョージ3世と結婚するために母国を離れたという共通点がある。
ちなみにあの壁の脱走未遂は?─あれは全部ライムズの案だ。
■シャーロット王妃は黒人だった?
製作総指揮兼ディレクターのトム・ヴェリカによると『多くの歴史家が、シャーロット王妃は文化的背景が混在した家系だったと考えている』と説明。
実際、歴史家のマリオ・デ・バルデス・イ・ココムは1997年に『王妃はポルトガル王家の黒人の分家であるマルガリータ・デ・カストロ・イ・スーザの直系である』と主張している。それが何を意味するか…。これは幾度となく歴史家の間で議論が繰り返されてきたことだ。
シャーロット王妃の人種をめぐる論争は、本作のクリエイティブチームを刺激した。『僕らは歴史書に記されているような出来事、つまり、その事実を封印し取り扱わないのではなく、別の角度から捉え光を当てたいと思った』とヴェリカは話す。
この決断こそブリジャートンの世界でしか描けない「クイーン・シャーロット」の大いなる試みへと繋がっている。
■当時のロンドンに黒人貴族はいたのか?
ライムズは、ジョージ王朝時代の独特のファッション、政治、文化を綴った本を読み漁り、登場人物のバックストーリーに大きな影響を与えたという。その中でも、アヴリル・ナントン&ジョディ・バートンによる著書『Black London』から大きなヒントを得たことをShondalandに明かしている。
『レディ・アガサ・ダンベリー(演: アーセマ・トーマス)とダンベリー卿(演: シリル・ヌリ)というキャラクターは、アフリカの王族がイギリスの寄宿学校に子供を通わせていたというアイデアから生まれた』と振り返り、『当時、信じられないほど裕福なアフリカ人がロンドンでパラレルライフを過ごしていた』と背景を説明している。
■シャーロット王妃が結婚したイギリスの君主とは?
イギリス国王ジョージ3世とシャーロット王妃は1761年9月8日に結婚し、その数週間後の9月22日に戴冠式が行われた。
■シャーロット王妃の子供は何人いた?
“ブリジャートンのシャーロット王妃” の子供は15人。
実際のシャーロットとジョージの間にも、6人の娘と9人の息子の合計15人の子供がいた。内2人は成人するまで生き延びることができなかった。
■シャーロット王妃の子供たちは、実際にも世継ぎをつくらなかったのか?
劇中でレディ・ホイッスルダウンが嘆いたように、シャーロット王妃の唯一の嫡出子の死は王室の後継者がいないことを意味している。
現実では、1817年にシャーロット・オーガスタ王女が息子を身籠るも、出産中に死産し、間もなく王女も死去している。
その後1819年にエドワード王子との間に誕生した、後のヴィクトリア女王まで次の正当な相続人は現れなかった。
■ジョージ国王は本当に農業や天文学に興味があったのか?
これは実話に基づいている。『私がこの番組で残そうと決めた歴史的事実のうちの1つは、ジョージが農作業をしていたいう点』とライムズは語り、『当時はファーマー・ジョージ、ファーマー・キングと呼ばれていた』というエピソードを披露。
ライムズはまた、ジョージの天文学に対する情熱も盛り込んだという。 『金星の通過は、その時期に実際に起こった天文学的な現象だった』と、若き日の王は現実でも星空に魅了されたことを付け加えている。
これらの史実は、Georgian Papersアーカイブで確認できる。
■シャーロット王妃がイギリスにクリスマスツリーを持ち込んだのは本当?
ヴィクトリア女王と夫のアルバートが19世紀にクリスマスツリーを普及させたことは有名で、1848年に英紙イラストレイテド・ロンドンニュースでクリスマスツリーを囲む家族の写真が掲載されている。
しかし、ドイツの風習であるイチイの枝を飾る習慣を持ち込んだのは、実はシャーロット王妃で、その起源は1500年代のマルティン・ルターにさかのぼると言われている。
■ジョン・モンロー博士は実在した?
モンローは歴史上の実在する人物である。
彼は、ロンドンの有名な精神病棟ベスレム(別名ベッドラム)の院長であった。実際、1789年から1791年にかけて国王の病気について相談を受けていたという。
■ジョージの病気は何だったのか?
製作総指揮のベッツィ・ビアーズはNetflixへ『今日に至るまで、歴史を振り返ってみても、ジョージ国王が苦しんでいたのは一体何だったのか…という議論が残っている』と話している。
一方ライムズは、このテーマは番組で取り上げるべき重要な要素だったと説明。『誰かのために現実との接触を失うと、どう感じるのか、それがどういうことなのか、ジョージを通して我々は知ることができる』
『彼に何が起こっているのか、私たちは事細かに語らないことにした。精神的なものなのか、肉体的なものなのか、神経学的なものなのか。それが何であれ、彼を激しく支配するものと、それと戦おうとする姿を見守るだけ』
そして、シャーロット王妃がどのようにこの問題へ対処してきたか、という点も重要だとヴェリカ監督は補足している。物語を通して、二人の愛の忍耐力を示し、その姿を現代に見るのだ。
執筆中、ライムズはジョージの病気を決して軽んじないよう細心の注意を払ったという。『私たちがジョージの “狂気” について話し合う中で、他のストーリーテリングや歴史上のシーンで、ある種、からかうような表現にならないか気がかりだった。彼のために、人間的で人道的なものを作ろうと真剣に取り組んだ』と当時の状況を振り返っている。
■ジョージは実際にあのような扱いを受けていたのか?
「クイーン・シャーロット」は事実にインスパイアされた架空の世界のため、シリーズで描かれる “治療” も架空のものである。
しかしヴェリカ監督によれば、この時代の医療が残酷であった可能性は高いと認めている。『国王ジョージに少しの光を当てることで、視聴者はすでに知っている情報より、深く広く苦悩の程度を理解できるだろう』と話す。
『ジョージ王朝時代や摂政時代には、国王が苦しんだような問題に対処するために、かなり極端な方法が試されていた。ジョージとシャーロットが一緒になったのは愛によるものであり、愛がこの試練を乗り越える助けとなった。これこそ伝えたかったこと。物語の力だと言える』
■モーツァルトは実際にシャーロット王妃のために演奏したのか?
答えはYES。1764年の国王即位4周年記念式典で国王と王妃のために演奏したとき、この若き作曲家はまだ8歳だった。
その後、彼は6曲のソナタを王妃に献呈している。
Source: Tudum/ ‘Queen Charlotte’: Inside the History of a Fictional World より
声と権力を手にしていくシャーロット王妃を描く、『ブリジャートン家』の前日譚シリーズ「クイーン・シャーロット ~ブリジャートン家外伝~」は、Netflixにて2023年5月4日より独占配信開始!
作品ページ・予告編は▶︎こちらから