NetflixオリジナルSFシリーズ「センス8」(原題:Sense8) の最終回スペシャルエピソードが配信されてから、3年の月日が経過した。
ウォシャウスキー姉妹が手掛ける同シリーズは、数あるNetflix作品の中でもユニークで、中毒性が高く、先の読めないジェットコースターのような展開で人気を博している。オリジナルシリーズとして2つのシーズンが制作されたが、時機を逸し番組は打ち切りに。ファンからの反発や継続を訴えるキャンペーンは世界中に拡散され、未解決に終えた物語に終止符を打つため一夜限定のスペシャルエピソードとして買い戻された過去を持つ。
類をみないない支持により番組は完結に導いたが、背後にいる熱心なファンは現在も生き続けている─。
そんな異例のファンダム現象が英学者の目にとまり、ポーツマス大学教授のデボラ・ショーとバーミンガム大学教授のロブ・ストーンによって、「センス8」が異例の書籍化されることが分かった。
近日発売予定の『Sense8: Transcending Television』(センス8:テレビを超えて)と題された書籍は、単なるシリーズの学術的考察ではなく、「センス8」がテレビの枠を超えて与えた社会的、政治的、文化的影響を分析している。
2人は、米What’s on Netflixのインタビューでドラマから書籍化に至るまでの道のりについて述べている。
Q. どんな内容で誰に向けて執筆されたものか?
この本は、「センス8」シリーズのファンがFacebookで非公式に語り合っていた映画研究グループの投稿から生まれたものです。私たちはファンとして、そして学者の視点で共同で本を書くことに挑戦しました。
シリーズとキャラクターへの愛情を伝える一方で、米国中心主義などの批判があった点も議論に加えなければなりませんでした。とはいえ私たちは皆、物語で描かれる野心や象徴するものを愛しています。
とにかくシリーズのさまざまな側面について書き、足りない部分は他の人に連絡して補いました。
例えば、Netflixが業界に与える役割やテレビの進化、音楽の役割、クィア、トランス、ポリアモラスのアイデンティティ、ファンとセンス8、新しい信念体系であるセンス8、そして注目を集めている乱交とプライド。様々な章があります。
Q. 両者とも英国の大学で研究者として活躍されていますが、この番組が個人的にも職業的にも魅力的だった理由について教えてください。
ロブ:第1話は戸惑いましたが、第2話から興味を持ち始めました。そして第4話の “What’s Up? “のシーンなど徐々にコンセプトに魅了されていき、すべてのテーマとキャラクターが一体となったとき、ムンバイの屋上でカーラと一緒に見届けたい思いました。
また、随所に使われている世界の音楽も好きでした。本の中では劇中で流れる音楽について、共感、シンクロニシティ、多様性がどのように機能するかを説明しています。
デボラ:私は最初からこの作品が好きでした。『もしも私たちがみんなつながっていたら』というユートピアを、素晴らしいストーリーテリングで実現しています。すべてのキャラクターを統合し、世界中のゲイ、トランス、そしてストレートのキャラクターをつなげて、自己やアイデンティティを超越したクラスターを作っているところが気に入っています。まさに願望実現型の番組です。
SFと社会的現実、ジェンダーとジャンルの融合。ファンとしても思想家としても大好きな作品です。
Q. 本のリサーチ中に何か驚いたことはありましたか?また、番組の裏方や関係者に話を聞きましたか?
ロブ:「センス8」のファンがどれほど活気に満ちていて、広く浸透しているかにはとても驚かされました。このシリーズがもたらすクラスター、ファンサイト、グループ、ツイッターアカウントを発見することは非常に興味深いことでした。
また、調査のためにロックダウン中に「センス8」を再視聴したところ、「センス8」がいかに心地よくバーチャルな一体感をテーマにしていることがわかりました。一人ひとりが遠くにいて孤独であるにもかかわらず、オンラインですぐに共鳴して繋がる経験に、改めて驚きと感動を覚えました。
デボラ:映画やテレビの研究をすると、それが仕事になって楽しみが減るという現象が起きますが私の場合はそうはならなかったので良かったです。 自分の章を書くために再視聴する必要があったのですが、「センス8」は見直すたびに良くなっていきました。
寄稿者たちの章もまた新たな洞察を与えてくれ、シリーズの類似性やNetflixのストリーミングプラットフォームとの関係など、重要な側面を理解するのに役立ちました。
Q. 「センス8」は、Netflixが打ち切り判断後に復活させた数少ない番組のひとつです。復活を望む番組に対するファンキャンペーンは他にもたくさんありますが、「センス8」が成功したのはなぜだと思いますか?
ロブ:かわいそうなヴォルフガングのクリフハンガーは、ある意味で不幸中の幸いだったと思います。「センス8」は物語があまりにも痛々しいほど不完全であったため、時期尚早な中止は事を著しく悪化させた。これは、ファンに対する冒涜であることは誰も否定できません。
デボラ:その通りです。「センス8」のようなファンはいません。このシリーズは、世界中の人々と非常に親密な関係を築いてきました。この番組を見て、レズビアン、ゲイ、トランスであることをカミングアウトした人もたくさんいます。
多くの人々に安全で愛に満ちた空間を提供し、自分自身をヒーローとして見ることができる希望の空間を手に入れることができた。彼らは絶え間ないキャンペーンを行い、1話の特別なフィナーレという贈り物を与えてくれました。費用なんてかけなくてもいいんです。
Q. 最後に、いまNetflixで何を観ていますか?「センス8」ファンにお勧めの作品はありますか?
ロブ:『クイーンズ・ギャンビット』は、ユニークな感性、フェミニストのテーマ、ゴージャスなカメラワークがとても気に入りました。時代のディテールが良かった『マインドハンター』もおすすめです。『セックス・エデュケーション』は人生への愛と平等や多様性の暖かい抱擁が魅力だと思いました。あと『ブルックリン・ナイン-ナイン』は、ベタだけど愛らしく何度も声を出して笑ってしまいました。
デボラ:私も『クイーンズ・ギャンビット』と『セックス・エデュケーション』に賛成です。「センス8」のテーマに沿うならば、ドキュメンタリー『トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』は、映画やテレビにおけるトランス表現の歴史を描いており、「センス8」の制作者リリー・ウォシャウスキーと、ノミ役のジェイミー・クレイトンが出演していて素晴らしいです。また、大きなハートで、笑いあり、悲劇ありの『POSE/ポーズ』も大好きです。
書籍『Sense8: Transcending Television』は、2021年6月17日にBloomsbury社より発売される。
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「Sense8 センス8」 突然お互いの感覚や感情を共有できるようになった見知らぬ8人の男女…。「マトリックス」「バビロン5」のクリエーターが贈るスリリングな本格SFドラマ。▶︎視聴する |