ハリウッドに激震──熾烈な入札合戦の末、NetflixはWarner Bros.およびそのテレビ・映画スタジオ、さらにHBOとHBO Maxの作品群を手中に収めることになった。
ここでは、Netflixで視聴可能になると見込まれるワーナー・ブラザースの膨大なライブラリーについて、現時点で分かっている情報をもとに詳しく紹介する。

─業界構造を変える可能性を秘めた大型転換
これは映像業界における“地殻変動”とも言える動きだ。現段階では不明点も多く、詳細は今後数ヶ月かけて明らかになる見通しだが、ワーナー・ブラザースのアーカイブが極めて奥深いことは間違いない。
Netflixが得るのは単なる配信タイトルの増加ではなく、数十年分の映画史・テレビ史そのものだ。
─ワーナー・ブラザースのライブラリー規模
CALIFORNIA MUSEUMによると、ワーナー・ブラザースのライブラリーは以下の規模を誇るという。
- 長編映画:6,650本
- テレビ番組:約50,000本
- アニメーション作品:約14,000本
またJustWatchの調査では、HBO Maxには少なくとも3,600本以上の作品が存在するとされている。(他社作品を含む)
■ワーナー・ブラザース・テレビジョン

1950年代から続くテレビ界のトップランナー
HBOにとどまらず、ワーナー・ブラザース・テレビジョンは世界最大級のテレビスタジオのひとつだ。1950年代までさかのぼる膨大なカタログを持ち、Apple TV+、Prime Video、Peacock、The CW、Paramount+など、多くの配信サービスと取引してきた実績がある。
Netflix側の声明によれば、この部門が従来通り他社ともビジネスを継続する可能性が示唆されている。
ストリーミング時代を支えてきた名作ドラマ群
長年にわたり制作されてきたクラシック作品は、現在も高い視聴価値を持つ資産だ。代表的なタイトルには以下が含まれる。
- フレンズ
- ビッグバン★セオリー
- ベルエアのフレッシュ・プリンス
- ER緊急救命室
- ザ・ホワイトハウス
- ヤング・スーパーマン
- スーパーナチュラル
- ギルモア・ガールズ
- チャーリー・シーンのハーパー★ボーイズ
- ザ・ミドル 中流家族のフツーの幸せ
- ヴァンパイア・ダイアリーズ
- シェイムレス 俺たちに恥はない
- NYボンビー・ガール
- フルハウス
- Longmire
- All American
- CHUCK/チャック
- ゴシップガール
- テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく
- Mrs. Davis
- ハンドレッド
さらに、『スクービー・ドゥー』や『原始家族フリントストーン『といったハンナ・バーベラ・プロダクション作品群、『ルーニー・テューンズ』や『アニマニアックス』など、ワーナー・ブラザース・アニメーションの象徴的カタログもここには含まれる。

『ルーニー・テューンズ』といえば、皮肉屋で機知に富んだ〈バックス・バニー〉の存在を忘れてはいけない。ワーナーを象徴するマスコット的キャラクターとして、ロゴと共に長年親しまれてきた。
オリジナルの『ルーニー・テューンズ』の短編アニメにとどまらず、フランチャイズ全体を“ソフトリブート”する機会にもなり、愛され続けてきたキャラクターたちをベースにした新たなドラマシリーズや映画を制作することも可能になるのだ。
Netflix向けに制作されたワーナー作品が“永久保存”に!?
ワーナー・ブラザースはこれまでもNetflix向けに数多くの作品を制作してきたが、現行契約では永続的に配信されるものではなかった。
しかし今回の買収によりNetflixでの配信終了の心配がなくなり、“常設タイトル”として定着する見通しだ。
- ランニング・ポイント
- リアン!
- 大地の傷跡
- サンドマン
- スイート・トゥース: 鹿の角を持つ少年
- メイドの手帖
- ドリー・パートンのハートフル・ソング
- セルフメイドウーマン ~マダム・C.J.ウォーカーの場合~
- デッドボーイ探偵社
- クッキング・ハイ: マリファナ料理対決
- LUCIFER/ルシファー
- YOU ー君がすべてー
- MANIFEST/マニフェスト
- サブリナ:ダーク・アドベンチャー
- コミンスキー・メソッド
- Anna O(今後配信予定)
- The Aisle(今後配信予定)
- Scooby-Doo! live-action series(今後配信予定)
■ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ

100年以上続く映画史の中枢
すべての始まりは映画スタジオだった─。1900年代初頭から続くワーナー・ブラザース・ピクチャーズは、ギャング映画やフィルム・ノワール、壮大なミュージカル、社会派ドラマ、そして現代の巨大フランチャイズまで、ハリウッドの変遷を体現してきた存在だ。
ターナー・エンターテインメントの作品群も含め、その総数は6,650本以上とされている。代表的なタイトルを見てみよう。
1900〜1990年:映画史に刻まれたクラシック
- カサブランカ
- マルタの鷹
- ロビンフッドの冒険
- オズの魔法使
- 風と共に去りぬ
- ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ
- 欲望という名の電車
- 理由なき反抗
- ジャイアンツ
- ベン・ハー
- 俺たちに明日はない
- 暴力脱獄
- 時計じかけのオレンジ
- エクソシスト
- 燃えよドラゴン
- 狼たちの午後
- 大統領の陰謀
- シャイニング
- ブレードランナー
- グーニーズ
1990〜2020年:現代の名作群
- グッドフェローズ
- 許されざる者
- 逃亡者
- インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア
- ヒート
- L.A.コンフィデンシャル
- グリーンマイル
- マトリックス
- アイズ ワイド シャット
- トレーニング デイ
- ハリー・ポッターと賢者の石 ほか
- ミスティック・リバー
- ミリオンダラー・ベイビー
- ディパーテッド
- ベンジャミン・バトン 数奇な人生
- しあわせの隠れ場所
- インセプション
- アルゴ
- インターステラー
- ゼロ・グラビティ
- マッドマックス 怒りのデス・ロード
2020年以降:現在と未来のラインナップ
- DUNE/デューン 砂の惑星
- ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償
- ソプラノズ ニューアークに舞い降りたマフィアたち
- ドリームプラン
- マトリックス レザレクションズ
- エルヴィス
- ドント・ウォーリー・ダーリン
- バービー
- ウォンカとチョコレート工場のはじまり
- デューン 砂の惑星 PART2
- カラーパープル
- マッドマックス:フュリオサ
- ビートルジュース ビートルジュース
- ミッキー17
- マインクラフト/ザ・ムービー
- アルトナイツ
- Wise Guys
- ザ・ブライド!
- ゴジラvsコング
- シャーロック・ホームズ3
注目したいのは世代を超えて続く“最強コンテンツ”である『ハリー・ポッター』シリーズ。

映画公開から10年以上が経過した現在も根強い人気を保っており、Netflixではこれまで“期間限定ライセンス”という形で繰り返し配信されきた。しかし今後はライセンス期限を気にする必要がなくなり、全7作の『ハリー・ポッター』映画と、3作の『ファンタスティック・ビースト』シリーズが、Netflixライブラリーに長期的に組み込まれる可能性がある。
一方で、大きな焦点となっているのが、現在制作が進められているTVドラマ版『ハリー・ポッター』だ。
この新シリーズは発表当初から賛否を呼んでおり、とりわけ『映画シリーズから間もない時期に再映像化すべきなのか』という点を巡って批判の声も上がっているという。それでもプロジェクトは着実に進行しており、2027年の配信開始が予定されている。
ミレニアル世代、Z世代、さらにはアルファ世代に至るまで、『ハリー・ポッター』とともに育った層が存在する今、このドラマ版は新たなファン世代を生み出す効果が期待される。
─では、この動きはNetflixにとって何を意味するのか。
第一に、テレビドラマ版『ハリー・ポッター』は、完結を迎える『ストレンジャー・シングス』を担う次なる看板シリーズになるとみられる。
第二に、Netflixはスピンオフ展開という新たな選択肢を手にすることになる。
例えば、長年ファンから映像化を望まれてきた『忍びの地図』の製作者たち──いわゆる “マローダーズ” を中心に描くシリーズなど、新作映画やTVシリーズへと世界観を拡張するチャンスを手にすることになるのだ。
■HBO

テレビ史の“金字塔”がNetflixへ
HBOは数十年にわたり、テレビドラマの最高峰として君臨してきた存在だ。
『ザ・ソプラノズ』『ザ・ワイヤー』『トゥルー・ディテクティブ』『メディア王 華麗なる一族』といった重厚なドラマ群に加え、『セックス・アンド・ザ・シティ』『ラリーのミッドライフ★クライシス』『Veep/ヴィープ』などの名コメディも生み出してきた。
さらに『ゲーム・オブ・スローンズ』『ウエストワールド』『ダーク・マテリアルズ/黄金の羅針盤』といったファンタジー・SF作品では、視聴者を圧倒的スケールの世界観へと導いてきた。
こうした数々の代表作を含めたタイトルが、近い将来Netflixに加わる予定だ。
Netflixで初配信となるHBO作品(一部)
※一部タイトルは地域限定でNetflix配信歴はあるが、世界規模での展開は初となる作品も多い。
- ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア
- THE WIRE/ザ・ワイヤー
- ROME[ローマ]
- トゥルーブラッド
- ボードウォーク・エンパイア 欲望の街
- ゲーム・オブ・スローンズ
- ウエストワールド
- メディア王 〜華麗なる一族〜
- セックス・アンド・ザ・シティ
- ラリーのミッドライフ★クライシス
- Veep/ヴィープ
- シリコンバレー
- バンド・オブ・ブラザース
- ザ・パシフィック
- TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ
- チェルノブイリ ーCHERNOBYLー
- THE PENGUIN ーザ・ペンギンー
特筆すべきタイトルはやはり『ゲーム・オブ・スローンズ』だろう。『ロード・オブ・ザ・リング』が映画界を一変させたように、この作品もまたテレビ界の常識を塗り替えた作品と言える。

ジョージ・R・R・マーティンの代表作『氷と炎の歌』シリーズを原作としたHBOの映像化は、2010年代のお茶の間を席巻しファンタジードラマという分野において前例のない社会現象を巻き起こした。
長年にわたり、ネットワーク各社は独自の “ゲーム・オブ・スローンズ” を作ろうと試みてきた。Netflixもかつて「ウィッチャー」の映像化でその可能性を模索したが、当初の期待ほどの成果は残せなかった。
こうした経緯を経て、Netflixがついにこのフランチャイズの権利を取得することになったのは、ある意味皮肉な結果──『勝てなければ買収せよ』という格言どおりの展開だ。
─ではNetflixライブラリーへはどんな影響が生じるのか。
まずは全8シーズンの『ゲーム・オブ・スローンズ』が視聴可能になる。さらに、前日譚やスピンオフ作品も含まれる見込みだ。
- 『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』:2026年にシーズン3配信予定、シーズン4も既に更新済み
- 『ナイト・オブ・ザ・セブン・キングダムズ』:2026年1月配信開始予定、シーズン2も更新済み
そして原作『氷と炎の歌』の世界は、Netflixが長期的に展開できるストーリーの宝庫であり、無限の物語の舞台が眠っている。例えば、エッソス大陸の『ヴァリリアの破滅』を描いたスピンオフや、ファンが待ち望む『エイゴンの征服』『ロバートの反乱』『ナイメリアのドーン征服』『英雄の時代』などを題材にした壮大なストーリーの数々だ。
これらの設定や歴史を活かせば、Netflixは新作ドラマやスピンオフを次々と世に送り出すことができる。
■DC

Netflixが手にする“スーパーヒーローIP群”
DC(Detective Comics)は、バットマン、スーパーマン、ワンダーウーマン、フラッシュといった、歴史に残るヒーローたちを生み出してきた出版社だ。
88年にわたる歴史の中で、数え切れないほど映画・テレビの映像化されてきた。
クリストファー・リーヴ版『スーパーマン』、クリストファー・ノーラン監督による『ダークナイト』三部作、アローバース、DCアニメイテッド・ユニバース、そしてDCEU/DCUまで、その系譜は広大だ。
Netflixはすでにディズニーと競合関係にあるが、今後はスーパーヒーロー作品を軸とした独自の映像展開を構築する可能性がある。その中心人物として、元ディズニー所属で『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を成功に導いたジェームズ・ガン監督の存在が注目されている。
Netflixでの配信が見込まれるDC映画(一部)
- スーパーマン (1978)
- ダークナイト (2012)
- マン・オブ・スティール (2013)
- ワンダーウーマン (2017)
- バットマン (1989)
- ジャスティス・リーグ (2017)
- アクアマン (2018)
- スーパーマン (2025)
DCのテレビシリーズにも期待
- THE FLASH/フラッシュ
- ARROW/アロー
- Batman: The Animated Series
- Titans/タイタンズ
- バットマン・ザ・フューチャー
- ピースメイカー
- ドゥーム・パトロール
- GOTHAM/ゴッサム
- ハーレイ・クイン
- レジェンド・オブ・トゥモロー
- ジャスティス・リーグ
■カートゥーン ネットワーク / アダルトスイム

世代を超えて愛されるアニメの宝庫
カートゥーン ネットワークは、世界中で何百万人もの子どもたちの成長とともにある存在だ。そのライブラリーは数十年分に及び、今後も新たな世代を魅了し続ける。
『アドベンチャー・タイム』『ベン10』『レギュラーSHOW〜コリない2人〜』『スティーブン・ユニバース』『ぼくらベアベアーズ』など、近年のヒット作も含め、子どもから大人まで楽しめる膨大なコンテンツがNetflixに加わる可能性がある。
さらに、より大人向けのアニメを展開するアダルトスイムのライブラリーも含まれる。『リック・アンド・モーティ』『ロボットチキン』『ブーンドックス』『Smiling Friends』など、ネットミームを生み出してきた作品群も視野に入っている。
本来であればこの10倍の記事の長さになるであろう、それほどまでにNetflixが手にする“遊び場”は大規模だ。
この地殻変動級の取引によって、Netflixはどんな作品を生み出しどの名作をライブラリーに迎え入れるのか。あなたがNetflixに期待する展開は何だろうか─。その答えは、これから明らかになっていく。






