四六時中ネトフリ生活を送る編集者Tが、Netflixで配信されている作品をピックアップし独自の視点でベラベラ語る企画です。気になったらマイリストへどうぞ。
今月はTVドラマ「シッツ・クリーク」(原題:Schitt’s Creek) を紹介。“Netflixオリジナル作品” ではありませんが、現在日本ではNetflixのみが配信権を持っているようなのでピックアップしてみました。
シリーズは2020年にシーズン6で完結しており、当方もだいぶ前に観終わっているのですが Netflixの突如“配信終了のお知らせ〜”はよくある話。まだ観てない方は不意打ちを食らう前にぜひ押さえて欲しい一本です。
■「シッツ・クリーク」とは?
同シリーズは架空の町シッツ・クリークを舞台に、超リッチなローズ家が絵に描いたような転落人生を歩む物語。倒産で一文なしになった一家が、かつてふざけて購入したシッツ・クリークのモーテルに一家総出で避難する、波乱万丈に富んだコメディ作品です。
ローズ家は4人家族で構成されています。
▲まずは忍耐強い家長であるジョニー。(Cast:ユージン・レヴィ)
▲元女優でプライドの高い母親モイラ。(Cast:キャサリン・オハラ)
▲気取ったパンセクシャルの息子デヴィッド。(Cast:ダニエル・レヴィ)
▲そしてパリス・ヒルトンを強烈ver.にした利己的な娘アレクシス(Cast:アニー・マーフィー)
2015年よりカナダのCBCと米Pop TVで放送開始し、2020年にシーズン6をもって終了。実の親子であるユージン・レヴィとダニエル・レヴィが共同制作し、劇中でも親子役を演じていることで知られています。
昨年のエミー賞ではコメディ主要部門を総なめにし、見事最終シーズンを有終の美で飾りました。番組が終了してからも満場一致のカルト的な人気を誇っており、先月掲載されたイギリス大手新聞ガーディアン紙には『過去10年間で最高のシットコム』と評すレビューが投稿されるほど熱は冷めきっていないようです。
また、ニコール・キッドマンやジェニファー・ローレンスに続いて、マライア・キャリーまでもがファンであることをカミングアウト。Netflixは番組の視聴者数を公表していないが、関係者は『このシリーズは非常にヒットしている』と認めています。
■6度目の正直で、初のエミー賞獲得&驚異の9部門受賞!
最初の4シーズンはテレビ・アカデミーに見向きもされませんでしたが、2019年のシーズン5では作品賞、主演男優賞、主演女優賞など 4部門にノミネートされ少しずつ日の目を浴びるようになりました。そして最終章のシーズン6では15部門のノミネートを獲得し、最終的に作品賞、主演男優賞含む9部門の受賞する快挙を成し遂げました。
では、なぜこの番組がエミー賞で認められるまでに6年もの長い年月がかかったのでしょうか─。
そのひとつに、Netflixが2017年から配信を開始した影響力は無視できないでしょう。これまで米Pop TVを知らなかった全く新しい層への周知に成功したことで、1年また1年とシーズンを追うごとに熱狂的なファンが続出したのです。それも世界中で。中には、Netflixのオリジナルシリーズと勘違いする人も多かったようです。
この番組を、ありふれた田舎町の風刺番組だと思ってる方も多いのではないでしょうか。確かに水から出た魚という設定は新鮮さにかけ、階級闘争に起因する衝突や品のないユーモアは控えめに言っても予想通りでした。しかしシーズンを重ねるごとに、この番組はありとあらゆる前提を覆すのです─。
■視聴者をこれほどまでに惹きつけるものとは─。
この番組を観てると『カナダ人はジョークが大好きで、アメリカ人でさえ彼らの面白さについていけない』と発した友人の言葉を思い出します。事実、カナダ人による“カナダ産”ドラマの完成度にはかなり衝撃を受けました。
ユーモアという点では好みが分かれそうですが、蓋を開けると露骨な下ネタやSEXシーンは控えめで、エスプリの効いた、カナダ人らしい気さくさやニッチな魅力が映し出されています。
この尻上がりの面白さの秘訣。それはローズ家の社会的適応力です。おんぼろモーテルでさえ住めば都になるのですから落ちぶれたセレブとはいえ“腐っても鯛” ならぬ “腐ってもローズ” 。かつての栄光やセレブ習慣が捨てきれずシリーズを通して滑稽に描かれますが、同時に “楽観主義” という魅力を蘇らせてくれます。
そして、他のシットコムとは異なり「シッツ・クリーク」が思い描く世界、つまり現実離れしていない、“なんかありえそう” と思わせる卓越したシナリオにこそ魅力があります。田舎町での “共存” によって 家族のあり方を教えてくれ、キャラクターたちが成長してゆく─。当初は誰も予想しなかった人間ドラマに、いつしか笑いから感動の渦に巻き込まれてしまうのです。
架空の町シッツ・クリークは、製作陣いわく『誰にでも開かれたユートピアのような場所』と語り継いでいます。“シッツ・クリーク” という価値観に触れることは、平凡で何気ない幸せを思い出させてくれるだけでなく、いい人間に成長できる気がするのです。実は健全な作品なのかもしれません。
「シッツ・クリーク」シーズン1〜6 レブなローズ家が突然破産! 仕方なく越した先は以前冗談で買った町、その名もシッツ・クリークのおんぼろモーテル。金は天下の回り物とは、よく言ったもの。 ▶︎作品ページへ |